以下、『伊藤建築山田写真店』に寄せた文章を掲載いたします。
伊藤さんとは、2000年に開催した『閑』展を見に来ていただいたご縁で知り合い、かれこれ6年のお付き合いになります。
伊藤さんといえば、ダジャレ。
真面目な顔をして真面目な打ち合わせをしているときに、さりげなく会話にダジャレが織り込まれているので、油断できません。
今では「伊藤さんのダジャレは呼吸をするようなことなんだ」とわかりました。
今回は「伊藤ダジャレ店」ではないので、建築のことに話を移すと、私が撮影させていただいた中で一番印象に残っているのは、「カラコル5」。
撮影にうかがった日、私はちょうど物件探しが8ヶ月と長期に及んでおり、もんもんとしていました。
夫の整体院開業にともなう引越しで、整体院兼住居用を探していたのですが、これという物件がなかなかで出なくて、しかしそうのんびりもしていられない状況でした。
夫は私と知り合うまで、屋久島で気持ちのいい家に住んでいい暮らしをしていたのを、いわば私の都合で都会に来てもらった経緯があったので、私としては「気持ちのいい場所に気持ちのいい家」を借りなければという想いがあり、条件として、どうしても「広々とした」「田舎のよさがある」場所にこだわってしまうのでした。
といっても、私の通勤範囲内ということで、東京近郊に限られるので、余計難しかったのです。
「カラコル5」は、都会の真ん中恵比寿駅から徒歩圏内の商業ビルや高級マンションが立ち並ぶ、車どおりもそれなりに多い便利な場所に建っています。私が最近捜し求めていた「広々とした」「田舎のよさがある」空間とはかけ離れた環境です。
しかしお宅の中に入ると、その空気は周囲の慌しい都会の流れから一変するのです。
下から上へ、上から下へ循環する気持ちのいい空気や、ゆれる光がカメラにひっかかりました。
ここが、都会のど真ん中とは思えませんでした。
これは伊藤建築マジックによるもので、決して広々とはとれない土地に、ゆるゆると気持ちよく暮らせる家を設計されたのです。
そして「気持ちのよさってピンポイントなんだなー」と気がついた私。
「都会」や「田舎」という枠を越えられる、建築の力があるということを知ったのです。